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AIやアンドロイドが出てくる物語に、いつも期待していることがある。「人間に近づいていくこと」をゴールにする話ではなくて、「人間とは違う存在が、違うまま誰かのそばにいること」を描いてくれる話だ。
三月えみ『2055』は、その期待にまっすぐ応えてくれた一冊だった。恋愛を描くBLとして読んでももちろん良かったのだけれど、それ以上にSFとして、アンドロイドものとして、かなり刺さった。
ひとことで
AIを“AIとして”尊重するアンドロイドBL。人間に似ているから愛される、ではなく、人間とは違う存在だからこそ生まれる関係を、時代をまたぐ連作オムニバスで描いた一冊。
作品情報
- タイトル:2055
- 作者:三月えみ
- 出版社/レーベル:オーバーラップ/リキューレコミックス(LiQulle)
- 発売日:2026年1月15日
- ページ数:240ページ
- 価格:891円(税込)
- ISBN:978-4-8240-1471-9
あらすじ紹介
2055年、アンドロイドと人類が共生する世界。恋人同士のアオイと弥凪のもとに、弥凪の分身アンドロイド“ヤナギ”が届く。病気療養で遠く離れることになった弥凪は、自分の代わりにヤナギを置いていきたいと言うが、アオイは乗り気ではない。やがて目覚めたヤナギは、アオイに口付けをする——。
そこから物語は2072年、2075年と時代をまたいでいく。愛する人の幸せのために、彼らは進化しつづける。
感想
なかなか見ない切り口の連作オムニバス
『2055』は、ひとつの関係を最初から最後まで追いかける長編というより、時代ごとに違う関係や状況を切り取りながら、「人間とAIのあいだに何が起きるのか」を積み重ねていくタイプの作品だった。
この形式がすごく合っていたと思う。
アンドロイドBLというと、どうしても「人間に近づくこと」や「感情を獲得すること」が中心に置かれがちだけれど、『2055』はそれだけではない。人間に似ているから愛される、ではなく、人間とは違う存在だからこそ生まれる関係性を描いている。
AIが人間の感情を完全に理解するわけではない。けれど、理解しようとする。あるいは、理解できないまま、それでも相手のために最適な行動を選ぼうとする。命令に従うだけの献身とは違う、その姿がよかった。
「好き」「愛している」という言葉に回収される前の、もっと静かで、もっと構造的な関係の変化がある。そこがSFとしてもBLとしてもおもしろい。
私は「2075」が好きだった
特に好きだったのは「2075」。
これはもう、自分の好みの問題でもある。私はMCUならダミーが好きだし、『インターステラー』ならTARSが好きだし、『ロボット・ドリームズ』も好きだし、ベイマックスも好きな人間なので、かなり直撃だった。
つまり私は、誰かを助けたり、誰かに寄り添ったりするために作られた存在が、ただ便利な道具としてではなく、ちゃんとひとつの存在としてそこにいる物語が好きなのだと思う。
ダミーの、言葉を持たないのにそこに人格のようなものが見える感じ。TARSの、機械でありながらユーモアと信頼を担っている感じ。ベイマックスの、ケアのために作られた存在だからこそのやさしさと限界。そういうものが好きな人には、「2075」はかなり響くのではないかと思う。
AIを人間化しすぎない。でも、単なる機械としても扱わない。そのバランスがとてもよかった。
「そのままでいい」と言う人間と、もっと早くアップデートしたかったAIの対比もよかった。変わらなくていい、今のままで十分だと思う側と、変わりたかった、もっと早く変われていればと思う側。そのすれ違いが、かなり静かに効いている。
しかも、アップデートしたかった理由が健気でいい。より高性能な、優れた存在になりたかったというより、相手のためにもっとできることがあったかもしれない、という方向を向いている。そこに、AIとしての機能と、関係のなかで生まれた願いが重なって見える。
それから、人間から言葉を学習しているはずなのに、人間の予想とは少し違う出力をしてくるAIが本当に好きだ。人間の言葉をなぞっているのに、同じ出力には着地しない。そのズレに、機械らしさと、その存在自身の輪郭が出る。
“人間になりたい”だけではないアンドロイドBL
アンドロイドものには、「人間になりたい」「感情を知りたい」というモチーフがよくある。それはそれで王道だし、私も好きだ。
でも『2055』のおもしろさは、AIやアンドロイドの価値を「どれだけ人間に近づけるか」だけで測っていないところにあると思う。
人間と同じように泣けるから尊い、恋ができるから尊い、という話ではない。人間とは違う認識や制約を持つ存在が、その違いを抱えたまま誰かと関係を結ぶ。その距離がいい。
BLとしても、ここがかなり大事だった。相手を完全に理解できるから結ばれるのではなく、理解できなさを残したまま、それでも相手を尊重する。人間同士の恋愛でも本来そうなのだけれど、AIを介すことで、そのズレがよりくっきり見える。
「同じではない相手を、同じにしないまま愛せるのか」という問いがある。そこがとてもよかった。
技術説明の“納得感”
技術的な説明の仕方も、個人的にはかなり納得できた。
もちろん私は情報工学などに詳しいわけではないので、専門的に見て正確かどうかは判断できない。けれど、少なくとも読んでいるあいだに「都合のいい魔法」として処理されている感じはあまりなかった。
技術が物語のための飾りではなく、関係性の条件として機能している。どういう仕組みだから、何ができるのか。逆に、何ができないのか。その制約があるからこそ、登場人物の選択やすれ違いに説得力が出ている。SFとして読むときに、ここがちゃんとしているとかなり嬉しい。
感情の尊重と、隠しきれないエゴ
AIやアンドロイドの話ではありつつも、人間であれAIであれ、感情を持つ存在のその感情を徹底的に尊重しているところもよかった。
相手の気持ちを踏みにじらない。勝手に決めつけない。人間ではない存在を、人間の都合だけで消費しない。物語はそういう誠実さを貫いている。その一方で、登場する人間たちは、自分の願いや寂しさや執着を完全には隠しきれない。
そこがかなりよかった。
エゴをなくしきれないことは、単なる未熟さだけではないと思う。恋愛も、一緒に生きることも、相手を尊重したい気持ちと、自分の望みを捨てきれない気持ちのあいだにある。その両方があるから、関係はきれいごとだけでは済まなくなるし、だからこそ切実になる。
『2055』は、AIやアンドロイドを通して、人間の感情の美しさだけではなく、どうしても混ざってしまうエゴまで描いている。そのバランスが、BLとしてもかなり好きだった。
『宝石の国』が好きな人にも刺さりそう
読んでいて、『宝石の国』が好きな人は好きそうだなとも思った。
もちろん作品の方向性は違うけれど、「人間ではない存在の身体」「時間の流れ方の違い」「変化していく自己」「他者との関係によって揺らぐ輪郭」みたいな要素に惹かれる人には、かなり相性がよさそう。
技術が進んだ近未来の話でありながら、どこかディストピアものの雰囲気をまとっているところにも、『宝石の国』に通じるものを感じた。明るい未来予測というより、人間や社会の輪郭が少しずつ変質していく感じ。その不穏さが、作品全体の静かな読み味につながっている。
詳しくは伏せるけれど、記憶や歴史の扱い方もかなりディープでおもしろかった。個人の記憶だけではなく、誰が何を残し、何を忘れ、何を「なかったこと」にしていくのか。そこに、人間とAIの関係だけでは収まらない、もっと大きな時間の問題が立ち上がってくる。
人間ではない存在を描くことで、逆に人間の感情や執着、愛情の形が浮かび上がる。そこに魅力を感じる人には届く作品だと思う。
こんな人におすすめ
- AI・アンドロイドものが好きな人
- 「人間になりたい」以外のアンドロイド像が読みたい人
- 『宝石の国』のような“人間ではない存在の物語”に惹かれる人
- ダミー/TARS/ベイマックスなど、誰かを助けたり寄り添ったりするために作られた存在が好きな人
- ひとつの答えに閉じない、連作オムニバスが読みたい人
まとめ
『2055』は、BLとしてもSFとしても、かなり好きな作品だった。
アンドロイドBLとして、AIをAIとして尊重している。人間に近づけることだけをゴールにせず、人間とは違う存在が誰かの想いを汲み取ろうとする、その切実さを描いている。そして人間の側の、どうしても隠しきれないエゴからも目をそらさない。
連作オムニバスだからこそ、ひとつの答えに閉じないのもよかった。いろいろな関係、いろいろな距離、いろいろな葛藤がある。その積み重ねによって、「人間とAIのあいだにある感情」を、単純な恋愛や主従関係だけではないものとして見せてくれる。
AIものが好きな人、アンドロイドBLが好きな人、そして『宝石の国』のような“人間ではない存在の物語”に惹かれる人には、ぜひ読んでほしい。



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